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柴犬

2016-09-16
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子供たちが一人暮らしを始めたことで、家の中がガランとした気がすると思っていましたが、それは妻も同じだったようで、どちらが言い出すともなくペットを飼い始めることにしました。

 

ちょうど知り合いが柴犬を育てていたので、子犬が産まれたら譲って欲しいと話していました。それから数ヶ月、可愛い子犬が4匹生まれたから、好きな子を譲ってあげるという連絡がありました。

 

妻と二人で知り合いの家を訪ねると、庭先で数匹の子犬が楽しそうにはしゃいでいました。

その中でも特に元気の良かった1匹の柴犬が、すぐに妻に駆け寄って来ました。そして、妻の足を登るような勢いで飛びついて来たのです。妻はひと目で気に入り、そのままその子を連れて帰ることにしました。

 

それが愛犬の「ゲンキ」でした。

 

その日から、ゲンキは私たちの新しい子供になりました。

ゲンキは名前の通り、本当に元気な犬でした。朝は暗いうちから起き出して、散歩に行こうと走って来ます。家に帰ると、今度はご飯が食べたいと自分の皿をくわえて駆け回ります。もちろん、ご飯を食べてからも家中を走り回って、時には障子に激突して突き破ることもありました。

それでも、ゲンキは私たちの可愛い子供で、私も妻も怒ることは一切ありませんでした。

 

 

しかし、出会いがあれば、必ず別れがあります。

老いて動きが鈍くなっても、いつも元気な姿で私たちに勇気を与えてくれました。元気が取り柄でも年齢には勝てません。最期まで病気をすることもなく、老衰で17年の生涯を終えました。最期もまるで眠るかのように息を引き取り、また目を開けて元気に走り回るのではないかと思ったくらいでした。

 

ゲンキとの別れの後、私たちは簡単な葬儀を済ませて、ゲンキのために小さな仏壇を用意しました。ゲンキとの生活はそこで終わりを告げるはずでしたが、その直後から妻の異変が始まりました。

 

 

なぜか朝早くから起き出して、一人でゴソゴソと何かをしているのです。

私が「何をしているんだ?」と聞くと、妻は「ゲンキの散歩の用意……」と言いかけてハッとするのです。すぐに落ち込んだ顔になって、ゲンキがいなくなったことを思い出す。そんなことが、数日は続きました。

 

その後も買い物に出かけると、ゲンキに食べさせていたドッグフードを買って来て「安かったから」と言って、棚にいくつも入れていき、それから一つを開けてゲンキの皿に入れるのでした。

 

私が耐えられなくなってゲンキの皿を捨てると、ごみを漁ってまでゲンキの皿を取り戻しました。キレイに洗って、ゲンキの皿を抱きしめた妻は「どうして捨てるのよ!」と私を怒鳴りつけ、号泣していました。

 

このままではいけないと思いながらも、いつも妻の剣幕に負け、そしてそれを癒すこともできない日々が続きました。

その間も妻はゲンキの皿にドッグフードを入れ、いつもの場所に毎日のように置いていました。それからゲンキの写真を持って来て、妻は「ゲンキ、美味しい?」と聞き、最後には決まって涙を流していました。

 

さすがに私も耐えられず、ゲンキのことを忘れさせるために妻と旅行に出ることにしました。

しかし、旅支度をしていると、妻はゲンキのケージやドッグフード、リードなどを準備して、ゲンキの写真を見ながら「一緒に行こうね」と言うのでした。私がそれをやめさせると、今度は家を出る時にドッグフードを多めに入れた皿を仏壇の前に持って来て「お留守番を頼むわね」と言っていました。

 

どうすれば妻が立ち直れるのか、私はそればかり考えていました。

知人のアドバイスで新しい犬を飼うことも検討しましたが、妻はどうしてもゲンキにこだわっているようで、私の言うことを聞いてくれませんでした。

 

そんな時、ゲンキを譲ってくださった知り合いから「子犬が産まれたから遊びにおいで」と声をかけて頂きました。

ゲンキの兄弟はもういませんが、その孫たちがいるので、妻が少しでも笑顔になれば良いと思って連れて行きました。そこには、ゲンキの面影がある子犬たちが、ゲンキと出会ったあの日と同じように庭先で駆け回っていました。

 

妻は子犬を連れて帰っても良いと言われても、連れて帰ることはしませんでした。

しかし、最近はその方の家に時々遊びに行っています。子犬たちにゲンキの面影を重ねているのかも知れませんが、少しずつ妻の行動も落ち着き始めています。

 

ゲンキの写真には時々語りかけるものの、ドッグフードを買うこともなくなりました。ゲンキの写真を眺めながら物思いにふけっていることはありますが、妻も立ち直りたいと思っているようです。

 

出会いがあれば、別れもあります。

そして、別れがあっても、また新しい出会いがあります。妻もそのことを分かっていると信じて、今度は「子犬を連れて帰ろう」と言ってみようと考えています。

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